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三 第二章 『沈まぬ太陽』 なんか恐くない! 一 伯父の心配 全昭和食品労働組合の第五十二回大会が開かれた会場は、東京・日暮里駅近くのホテル・ラングウッドであった。金曜日午後一時からの開催ということなので、銀太郎はその前の晩、足立区西新井の実家にとまり、母、怜子と妹の由紀子とともにすごしていた。 久しぶりに家族三人で夕食を共にした席で、看護学校に通う由紀子がたずねた。 「お兄ちゃん、組合の役員って、なあに? 労働組合って何をするものなの?」 唐突な質問に、銀太郎は一瞬戸惑った。どのように答えたらよいのだろう。 「そうだなあ、労働組合というのは働く人のための組織かな。そうさ、働く人のために、賃金とか労働条件とかに関して、会社と交渉したりするんだ」 銀太郎は知る限りの知識を使って、兄貴風を吹かしながら、なにやらかっこいい正義の味方的なニュアンスで説明を行った。 「ふーん。そうなの」妹の返事はそっけない。 「お兄ちゃん、そんな役目引き受けて、会社に変に思われない? 大丈夫なの?」 母が心配そうに二人の会話に入り込んできた。 「保証人になってくれた伯父さんにも、迷惑にならないかしら‥‥‥」 「え? それはまたどうしてなの?」 由紀子は母の心配の意味がさっぱり理解できないようだった。 「大丈夫だよ、母さん。うちの組合は会社のいいなりだし、第一、会社と対立するような組合じゃないから、安心していいよ」 銀太郎は、とっさにこうは否定したものの、正直のところ自信はなかった。 「ならいいけど、あまり深入りしちゃだめよ」 母は再度、念を入れてきた。 「代議員は皆が順繰りにやるものらしいから、皆一年交代なんだって」 母を心配させたくない銀太郎は、幾分脚色を交えて答えた。 「そう、ならいいけど‥‥‥」 明らかに母は、銀太郎が組合役員になったこ とに対して反対のようだった。そして、銀太郎にこう言った。 「薫(かおる)伯父さんにだけは、ちゃんと報告しておいてね」 「わかった。土曜日、大会は昼で終わるから、その後、伯父さんのところに報告にいくよ。お土産も持って来たし‥‥‥」 母はそれ以上、なにも言わなかった。 大会の終了後、栃木支部の出席者と日暮里の駅の近くで一緒にランチを済ませ、その足で銀太郎は東村山に住むおじさんの家に向かった。 薫伯父さんは、銀太郎の母の二歳年長の兄である。父親を早く亡くした銀太郎たち母子家庭になにくれとなく気を配り、高校進学をあきらめかけた銀太郎に、学費援助を出世払いで惜しみなく援助してくれた人だった。銀太郎の就職の際にも、たまたま昭和食品の人事課長をしていた大学の同期生、加藤に頼み込んでくれていたのである。銀太郎はつゆ知らぬことであった。 日本国憲法で認められた「労働三権」を具体的に保障した法律「労働組合法」と、労働者の保護を目的として労働者が人たるに値する生活を営むために必要な労働条件の最低基準を差ためた法律「労働基準法」、そして、労使関係の公正な調整、労働争議の予防又は解決を目的とする法律「労働関係調整法」、以上三つの法律の総称。ひとくち用語解説… 「労働三法」

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