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午後六時からは、別会場で夕食を兼ねた夜の懇親会が始まった。全員参加の立食形式のパーティーである。 絹田委員長がビールの杯を片手に、栃木支部の席にやって来た。丸山支部長が新任の代議員一人ひとりを委員長に紹介しはじめた。ところが、食べることに夢中になっていた銀太郎は、そのことに気がつかず、思いっきり口の中に寿司を放り込んだ途端に銀太郎の名前が紹介された。 「吉川銀太郎です。よろしくお願いします」と言ったつもりだったが、 「うしあわうたおうえす。うしうおうしう」としか聞こえなかったようで、周囲には忍び笑いが広がった。そこへ絹田委員長が、その妙な挨拶に対して、「うおううう」とすかさず返事をしたので、たちまち栃木支部のテーブルでは爆笑の渦が巻き起こった。これが、銀太郎と絹田委員長との、初めての出会いであった。 腹も膨れひとまず落ち着いた銀太郎は、同期の仲間のいる各支部のテーブルを訪問した。またその仲間に次の支部へと紹介されて渡り歩くことになり、十支部と中央執行部席の全テーブルごとに「栃木支部の銀太郎です」と持ち前の大きな声で挨拶し、「よろしくお願いします」と乾杯を繰り返した。 こうして、その元気のよさと人懐っこいキャラクターで、一夜にして「栃木支部の銀ちゃん」の名は全国の支部に知られるところとなった。 二日目は、午前九時からスタート。運動方針の提案から始まった。運動方針の説明は三十分かかった。続いて、予算の提案。これも三十分ぐらいの時間を費やした。 十五分の休憩後、まず運動方針案に対する審議が始まった。 各支部から一人ずつ代表質問が用意されていたので、一日目とは違って活発な質疑が展開された。 しかし、反対という意見はほとんどなく、質問や要望に限定されていた。最後の支部との質疑応答が終わったのは、十一時ごろだった。 運動方針案と予算案の採決は、挙手で行われた。銀太郎が周りを見渡したところ、反対票に手を上げる人が数名いたのでビックリした。 それを見て、ベテランの鈴木が「彼らはいつもそうなんだ」と木で鼻をくくるような調子で銀太郎に告げた。銀太郎には、彼らがなぜ反対するのかもわからないが、それを驚く様子もなく、さも当然のように受け止めている鈴木の態度も、ぜんぜん理解できないでいた。 栃木支部は全員が賛成に挙手をした。 続いて、議長団が中央役員選挙に入る旨を告げ、中央執行部全員がひな壇から退場した。 何が始まるのかと思って銀太郎がひな壇を眺めていると、議長団に指名された選挙管理委員会の委員長という人が演壇に登場し、中央執行部の立候補者氏名を発表し始めた。 中央執行委員長候補 絹田至、中央副執行委員長候補 佐々木勉、中央書記長候補 渡辺慶介、中央書記次長候補 黒田晋と紹介した。名前を呼ばれるたびに一人ひとりが、ひな壇に再度登場して、頭をぺこりと下げた。その都度、会場からは拍手で迎えられた。 (なるほど、皆に承認されるまでは執行部もタダの人ってわけだ)と銀太郎は理解した。 中央執行委員候補は今後開かれる支部大会で支部長になったものが兼務することが説明された。 「対立候補もいないため、選挙規定に基づいて無記名投票は省略して、その他、拍手での承認という方法をとります。これに異議ないですね。では拍手で、四名の承認を願います」と議長が一気に議事を進行した。 議長団が解任され、渡辺書記長が音頭をとって「団結頑張ろうー」の三唱。確かニュースか何かで見たことのあるもので、「これがそうか」と銀太郎は感動した。 銀太郎初体験の労働組合定期大会は、これで終了したのである。

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