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第一章 若き組合役員の肖像 一 銀太郎、代議員になる 二×××年八月。照りつける太陽がもっとも暑く感じられる午後二時ごろであった。 東北自動車道、矢板インターチェンジまで10キロメートルの標識。時速80キロメートルで下り線を渋滞もなく順調に突き進む大型トラックがいる。 都内大手スーパー配送センターへの乳製品の配送を終えて、帰路につく銀太郎のトラックである。 大手食品メーカー、昭和食品株式会社の栃木工場の物流管理部配送課で、大型トラック運転手として働く銀太郎は二十八歳、独身。切れ長の目元が涼しいなかなかの男前である。都内の高校を卒業して入社し早十年がたっていた。 入社当初は普通免許もなく、工場に併設された物流倉庫で構内作業から仕事が始まった。二十歳で普通免許を取得。希望して現在の配送部へと移った。それは、構内作業から配送の仕事を見ているうちに、強い憧れを持ったからだった。 配送の仕事の核心は、お客様に約束どおりの時間までに製品を納入することである。そして、そのために自分の意思と判断によって、その日の交通状況によって配送ルートを自由に選択する。銀太郎にとっては、使命感に満ちた、しかも変化のある魅力的な仕事に思えた。 また、仕事を通して、広く世の中の人や出来事に出会えるようだ。なぜなら、配送ドライバーたちの語る話は、大変面白くネタもいろいろと豊富で、毎日の仕事を楽しんでいるようだった。若い銀太郎にとって、そのようなドライバーの仕事は輝いて見えた。 その後、長距離の配送にも携われるし、それによって給料もすこし高くなるのもあって、大型免許も取得して、現在は都内への大型トラックによる配送が主な仕事となっている。 銀太郎はいつもの通り、工場入り口に詰めている二人の守衛、細矢さんと所さんに軽く右手を上げて挨拶した。この守衛さんたちは、いつも銀太郎たちを父親のような眼差しで見守ってくれている。それから明朝に配達する乳製品を積み込む準備のために、倉庫のいつもの場所にトラックの後ろドアを開けて接続し、エンジンを切った。 運行記録簿に到着時のメーターを記入し、走行時速を記録するタコメーター用紙を取り出して配送事務所へと戻っていった。 「ただいま戻りました」の銀太郎の挨拶に、事務所内で作業する石川純子がいつものややかん高く明るい声で 「お帰りなさい」と答える。 運行管理者の大川さんも、やはりいつものように五分刈りの頭を振り返って 「ご苦労様」と銀太郎に声を掛けた。 しかし、その後に続いた言葉は、明らかにいつもとは違う言葉だった。 「そうそう、そういえば銀太郎、労働組合が帰りに組合事務所に寄ってほしいってよ」 「丸山支部長さんからの伝言なの」と石川純子が電話を受けたらしく、興味しんしんといった顔つきで付け加えた。 「組合が‥‥‥?」 普段、ほとんど労働組合と付き合いのない銀太郎にとって、労働組合から指名の呼び出しに、少し驚いた。が、支部のレクリエーションのボウリング大会や職場集会などで丸山支部長とは面識があったので、それほど気に留めることもなかった。そして、一日の運行記録と納品伝票および受領書を整理した後、大川さんと明日の配送先と荷物内容の確認を済ませた。 「お先に失礼します」と元気よく飛び出して、呼び出された組合の事務所に向かっていく。

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