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エピローグ 「そうだったの‥‥‥。知らなかったわ、銀ちゃんが組合役員になったきっかけ。そんなことがあったんですね‥‥‥」 いつもの軽い調子にも似ず、すっかり感じ入ったようすでミス・ユニオンは、ドクター・レイバーの話にうなずいた。 しかし、ミス・ユニオンの手元には、いつの間にどこから取り出したのか不明ながら、皮むきのピーナッツの袋とサキイカの袋がほとんど空になっており、お客様である北海ビール労働組合からいただいた生ビールのロング缶が六本も空いていた。 「ねえ、ドクター。銀ちゃんたちの労働組合がやり遂げたことって、今、企業の重要課題となっているコンプライアンス(企業倫理と法令遵守)の取り組みというものでしょ」 ミス・ユニオンの頭脳は、ビールのせいなのか随分と回転がよくなっているようである。 「いいところに気付いたね」と、答えるドクター・レイバーの手には、日頃『餡子(あんこ)はつぶ餡に限る。漉(こ)し餡は邪道』と語るだけあって、つぶ餡のどら焼きがしっかりと握られている。それを振りかざしながら、ドクター・レイバーは 「コンプライアンスの取り組みで、実は最も重要な役割を果たすのが労働組合なんじゃな。企業だけでの取り組みだと、どうしても利益追求という経済合理性の論理に押し流されてしまって、中途半端なものになってしまう。『のどもと過ぎれば熱さ忘れる』という状態になってしまうんじゃ。だから、労働組合の役割は重要なんじゃ」と、どらやきを齧(かじ)りながら力説する。 大阪で四時間のセミナーをやってきた後とは思えないエネルギッシュな語り方である。 「あらら、話にすっかり夢中になっていたら、もうこんな時間なの」と、ミス・ユニオンはびっくりして言った。 壁の時計は午前五時を示し、西新宿の空は明けはじめていた。 たくさんの建物が入り組んだ都会の路地にあるj・union研究所の窓にも、ビルの谷間をぬって淡いオレンジ色の朝の光が差し込み、あたりがほの明るくなってきた。 その光を見つめながら、ミス・ユニオンがつぶやいた。 「日本では、沈まぬ太陽なんてないのよね。太陽は必ず沈む。でも、必ず、ふたたび朝日となって昇ってくるんですよね」 なんだか柄にもなく、文学的かつ哲学的なミス・ユニオンの独り言に、どら焼きを食べ終えたドクター・レイバーは、お茶をすすりながら力強くうなずくのであった。 (注意) この物語はすべてフィクションです。実在のあらゆる団体・個人とは一切かかわりはございません。 職場の星~美創館労働組合物語~ 著者:西尾力 / A5版 317頁 定価 1,575円(税込)世界恐慌の闇を照らす光とは何か?j.unionが問う20年目の真実 創立20周年を迎えるj.unionが渾身の力を込めてお送りする、本格的な労働組合ルポルタージュ風物語であり、労働組合関係者必読書。

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