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第六章 誰が組合役員の役割 を評価するのか? 十一 支部長の策略 栃木支部の組合事務所で、丸山支部長からこの労使協議会の様子を伝えてもらった銀太郎は、あの時、倉庫で中岡社長が自分の肩を叩いて言った言葉の意味が、はじめてわかったのである。 「銀ちゃん、今日は実は、ひとつ私からの頼み‥‥‥と言うか、相談があるんだ」と丸山は、椅子を銀太郎のほうへ引き寄せて言った。 「何ですか、相談って」 「銀ちゃんに、栃木支部の書記長の役を引き受けてもらえないかな、と思っているんだ」 「えっ、それは勘弁してください。僕はまだ職場委員一年生なんですからとても無理ですよ」 銀太郎は意外な話にびっくりして断った。 「そうか、書記長は難しいか‥‥‥」 「きまってますよ、執行委員もやっていないのに、いきなり書記長なんて絶対無理ですってば‥‥‥」 丸山支部長は一瞬、床に視線を落としたように見えたが、間髪をおかず銀太郎の目を正面から捉えると、 「じゃ、執行委員ならやれるかい?」と聞いてきた。銀太郎は心の中で一瞬のうちに、書記長の役回りと執行委員の役回りを比較していた。そして、なかば無意識のうちに 「執行委員ならともかくねえ‥‥‥」と、口に出してしまったのに気が付いた。それを聞き逃さなかった支部長はすかさず、 「じゃ、執行委員なら引き受けてくれるんだね。ありがとう、頼むよ。よかったよかった」と、言葉を挟みこむ隙もなく銀太郎の両手を取って大きく揺さぶった。しかたなく銀太郎は 「はあ、わかりました」と答える以外なかったのである。 組合事務所を後にして自転車で寮に戻る銀太郎は、先ほどの支部長とのやり取りが、たしかj・union研究所の組合活動テキスト『労使交渉・協議の進め方』に載っていたなあ、と思い当たった。それは、交渉の裏技『ドア・インザ・フェイス・テクニック』といわれているものである。(しまった。丸山支部長にしてやられた)と思うが、同時に、丸山さんの交渉力ってすごいなあ、と尊敬の念も抱かされるのであった。 しかし、寮に戻ってから落ち着いて考えてみると、薫伯父さんとの約束で、組合役員は一年で辞めると言ってあったことを思い出した。そこで、組合事務所に電話を入れて丸山支部長を呼んでもらった。伯父との約束の件を述べ、再び断りを入れた。 「すみませんがそういう訳で、できないんです」 「どうしてもだめかね?‥‥‥」 丸山支部長はなかなか了解してくれない。 「実は、君に支部執行部の一員を担ってほしいと思っているのは、私だけじゃないんだ。本部の絹田委員長からも要請をうけているんだ。もし、伯父さんがOKしてくれるようならばいいかい?」と、諦めず迫ってくる。 「伯父さんだけではないんです。今年職場委員をやるにあたっても、母親に反対されていたんですが、一年でということで何とか説得しているんで、勘弁してください」と銀太郎も引かずに拒む。 「わかった、今日のところは理由を了解した。時間はあるので、もう少し考えてくれ」ということで、丸山支部長が折れて、電話が終わった。銀太郎はつくづく、 「組合役員のなり手がなくて、執行部は大変だよなあ」と思うのだった。

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