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守衛所から連絡を受けた大塚総務部長は、社長の突然の訪問を知らせる電話を受けるやいなや、「なんだって? 社長が見えたって?」と叫びながら、受話器を耳に当てたまま立ち上がった。その拍子に椅子が後ろに傾いて窓際の壁にガツンとぶつかった。事務所内に一気に緊張が走った。窓から工場の入り口をみると、確かに一台の黒塗りのベンツが事務所の玄関に向かってゆっくりと走ってくるのが見える。 「岡本君、すぐに原田工場長に連絡してくれ」大塚総務部長は指示を下すのももどかしげに玄関に走っていった。岡本課長は焦った。原田工場長は出張で明日まで不在なのである。大塚総務部長もそれを知っているはずなのだが、突然の社長来訪に冷静さを失ってしまったに違いない。 普段の社長の工場視察であれば、工場の事務所玄関に車が着くなり、あらかじめ到着時間の連絡を受けていた工場長以下幹部たちがずらりと両サイドに陣形を整えてお出迎えするのが通常である。しかしその日の工場の玄関には、息せききって駆けつけた総務部長のほかに出迎える幹部は一人も居なかった。 単独行動で工場にやってきた中岡社長は、工場長室の応接ソファーに座るやいなや、これから工場内を視察する旨を大塚総務部長と岡本課長に伝えた。そして視察後に、製造部の管理職全員に聞きたいことがあるので集めるように指示を出した。 「品質管理の手抜きは、君たちが悪意でやっているとは思えない。そうせざるを得ない事情があったはずだ。それを聞かせてほしくて今日突然やってきた。君たちの責任を問おうというわけではないので、心配する必要はないよ」と動揺する二人を落ち着かせるべく、穏やかに語りかけた。それから社長は、年齢のわりには軽やかな身ごなしですっと立ち上がると、手馴れた様子でロッカーの中から白い帽子と上下のユニフォームをみずから取り出した。 「それでは、案内をたのむ」 「あ、はい、かしこまりました」お互いに顔を見合わせてぼうっとしていた総務部長と課長は、弾かれたように立ち上がって社長の前を歩き、工場の内部へと向かった。 社長は工場の端から端を丹念に見て歩き、その現場にいる管理職に点検と清掃のマニュアルと実際との違いを尋ねて回った。特に、賞味期限を刻印する工程では、その作業を直接行っている社員にまで、これまでのやり方とどのように変えたかを細かく尋ねている。 このように突然やってきた中岡社長に、現場の管理職や社員がじかに尋ねられれば、事実をありのままに語るほかはない。中岡社長は、こうして現場での言質をとりつけてから、今度は会議室で川村製造部長以下管理職を集めて直々のヒアリングを行った。 出席した管理職に対して、中岡社長から先ほど大塚総務部長と岡本課長に伝えられた言葉が再び伝えられた。 「今日、わたしが突然やってきたのは、責任を追及しに来たのでもなければ、犯人探しをしに来たのでもありません。くれぐれも誤解 職場での組合活動の進め方 -組合員として日常の職場で取り組むべき10の活動- 監修:西尾 力 / B5版 66頁 定価 1,000円(税込) ユニオンリーダー実践マニュアルpart3 「職場での組合活動・運営でリーダーシップがとれない」「組合員とコミュニケーションできていない」「長いだけの職場会議で何も決まらない」・・・などなど、多くの職場委員が抱えている問題を”21世紀型労働組合”的アプローチで解決に導きます。

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