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二 トップ会談 新緑が美しい五月の、とある月曜日の朝。昭和食品のトップ対談が開かれた。 絹田中央執行委員長は四十五歳。阪神タイガースを愛する根っからの関西人であるが、飾らない人柄と敏腕な組織力を買われて三十五歳で大阪支部長から中央書記長になり、委員長になって既に五年目である。スポーツ選手のような堂堂たる体躯にも似ず、笑うと両頬にえくぼが愛嬌を添える。 その席で、絹田委員長から中岡社長に銀太郎たちがまとめたレポートが渡された。 「このレポートは、現場の真実の叫びともいうべきものです。現場の正直な気持ちが書き込まれていますので、色眼鏡をかけずにお読みいただきたいと思います」 物静かながら底力のある声で、絹田委員長は中岡社長に話しかけた。 「わかりました。読ませてもらいましょう」と、中岡社長はレポートの一ページ目を開いた。 中岡社長の、意思の強そうな太い眉が時折ピクピクと動き、二十分ほどの間、レポートのページをめくる音だけが、初夏の陽射しの入り込む社長室に響いた。 最終ページを読み終えた社長は、目をつぶり、しばし沈思黙考している。そして、こう切り出した。 「委員長、ようく、わかりました。私がこの目でじかに確認し、判断いたします」 自ら現場にいって見てくると委員長に約束する中岡社長は、実はかつて組合役員をしていたことのある人だった。だから、組合がいいかげんなことを言うはずがないことを理解しているのである。火のないところに煙は立たないことを知っているというわけだ。そして、中岡社長は現場主義をモットーにしている人でもあった。 五月の末、中岡社長が突然お忍びで、栃木工場にやってきた。 普段ならば、中岡社長の現場視察は、事前に秘書室から連絡が入る。したがって、社長に視察してもらう箇所は、事前にすべて段取りが決められていて、準備万端ととのえてしまうのが普通であった。 なぜそのような状況になるのかというと、工場長に事前に知らせずに本社重役陣が突然現場に訪れるような事態となると、後で秘書室に対するクレームが発生するからである。 秘書室長および秘書課の面々も人の子。工場長クラスは執行役員でもあり、いずれは配属によっては自分の上司になるかも知れない人たちである。彼らに恨まれたら、自分の人生は途絶えてしまう。したがって、情報がリークされていくのである。 また、情報を内密に伝えて、彼らに貸しを作れることで有利な状況を作り出したいというサラリーマン力学が自然に働くのである。 しかし、今回の中岡社長の行動は全くの隠密となった。秘書室すら中岡社長の予定が知らされていなかったのである。 栃木工場入り口の守衛所はパニックに陥っていた。いきなり、何の連絡もなく中岡社長の車が横付けされたからである。 ソーシャルスキルドリル SATアサーション編 著者・監修:橋本佐由理 / A4版 69頁 定価 700円(税込) あなたは、自分の思いや考えを、率直に、誠実に、粘り強く、伝えることができますか。 自分の思っていることを率直に言うことは、相手に対して失礼だとか、大人気ない行為だとか、相手の反感を買って後で自分が不利な立場になるのではないか、などと思っていませんか? 甘えと察しの文化で育った日本人の多くにとって、自己表現は苦手なものです。上手な自己表現をするためには、アサーションスキルが必要です。ソーシャルスキルを活用して、「自分も相手もOKな自己表現」を身につけましょう。

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