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その結果、今回の事態を引き起こした背景には、本社からの厳しいコストダウン命令が大きな要因として存在することが、浮かび上がってきた。 昭和食品の現場での状況の厳しさ。それは、WТО(世界貿易機関)が推進する農産物の自由貿易幅の拡大によって、国際競争が激化することを受けて、国際競争を勝ち抜く工場にするための生産コストの削減が、重要な課題として経営上取り上げられていたためだった。 さらに、中岡社長の「構造改革180日の挑戦」という新年に発表した指針を受けて、全社的なコストダウン運動が展開され、栃木工場にはコスト削減目標三十パーセントが突きつけられていたのだった。 しかも、達成期限を年度末、と区切っての否応なしのコストダウンの達成を迫るもので、製造事業部の総責任者でもあった本社の荏本専務が陣頭指揮するプロジェクトであることが分かった。 荏本専務は銀行から送り込まれてきた役員で、管理職の間では、コストカッターの異名をもつ人物である。 強烈なコストダウンを求める背景には、経営陣は売り上げに匹敵する有利子負債の削減という課題を背負っていることを、銀太郎は知った。荏本専務は、そのためにイナホ銀行から送り込まれてきたのである。 「三十パーセントのコストダウンが達成されなければ、人員三十パーセント削減に着手せざるをえない」との荏本専務の激が、管理職には強烈なプレッシャーとなっていた。『中高年に対する希望退職募集が行われるにちがいない』とのうわさも広まっていた。 そこへもってきて、もともと乳製品の国内総需要は、バブル崩壊以降、消費不況の影響を受けて低迷し続け、かつ、デフレ経済による価格の低下と激しいダンピング競争環境が続いている。全社を引っ張っていけるほどのヒット商品もないために、現場には暗い空気が漂っている。 そのような精神的に追い込まれた現場になっていることが、組合員管理職に対するアンケートやヒアリングの結果まとめられた。 一方、品質管理部が打ち出した『カイゼン活 [定昇] 定期昇給の略。毎年一定期の昇給のこと。最近はこの定昇の実施を「賃金カーブ維持」と言うケースが増えている。 [ベア] ベースアップの略語。給料を物価上昇や他社比較などの理由から労働組合が交渉によって引き上げること。定期昇給と同時に行われることが多いために「ベア(定昇込み)」と表現されるケースが多い。 動』の徹底が、この傾向に拍車をかけていることもわかってきた。 『カイゼン活動』とは、某自動車メーカーをベンチマークとして自動車業界では常識のようにすでに何年も前からおこなわれている活動で、もはや国際語ともなっているものである。異業種ではあるが、食品メーカーの当社も行おうということで、各工場に至上命令のように降りていたのだ。 〈一職場一改善〉というかたちで命令が下されていた。 こうして、この二つの本社からの指示が重なって、今回の問題が発生したこともわかった。 銀太郎は栃木工場の組合員や職場委員の仲間たちの協力を得て、持ち前の粘り強さにより、以上のような内容のかなり詳細なレポートを何週間もかかって作成し、組合本部に送った。 そのレポートには、工場の管理職が本社の指示で品質管理の合理化をやむを得ず指示していること、その作業のやり方には現場の組合員も仕事の誇りが傷つけられていること、心に痛みを感じていることなどが書き込まれていた。 三月から四月にかけて、中央執行部はしばらく春闘交渉に勢力を取られて、この問題は一時ペンディング状態になった。 その春闘も、定昇維持、ルールどおりの業績連動型の計算式で算定されることを確認することで、労使双方とも了解するところとなった。

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