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十二 銀太郎 中央労使協議会へ 三月度の中央労使協議会が始まった。取締役十名全員、および事務局として人事部長と課長が顔をそろえている。組合側は中央執行委員十四名の出席である。 定例の労使協議会に、社長はわざわざ出席しない、という企業が多い中、昭和食品では定例労使協議会に毎回、中岡社長が出席していた。 いつものように、経理責任者である土井常務から二月の収支報告を受けた。前年同月をさらに下回るマイナスの経常利益という、厳しい状況が報告された。さらに、迫る三月決算の見通しも報告された。消費不況を反映して減収減益が確実視されるというものだった。 組合から収支に関する二〜三の質問がされたが、毎月収支報告がされていることもあって、確認程度のもので、議論になるというものではなかった。 続いて、営業責任者である依藤常務から、向こう三ヶ月の営業展開計画が述べられたが、これも毎回大きく違うということもなく、淡々と報告だけが進んでいった。 そして、中岡社長から新年の方針として発表した、国際競争に耐えられる企業体質を創り出す「構造改革180日の挑戦」のさらなる実践が急務であることが述べられ、組合への協力が要請された。 中岡社長の発言を受けて、絹田中央執行委員長が発言した。 「中岡社長がおっしゃる構造改革の推進に関しては、組合員の雇用と賃金を守るという立場から基本的には組合も支持し、やっていかなければならないと考えています。しかし、現場ではその命令が歪んで伝えられており、問題を起こしていることに憂慮しております」と指摘した。 「その代表的な例を、中岡社長にお伝えしたい。栃木工場のケースです」と言って、丸山支部長と銀太郎を紹介した。 丸山支部長と銀太郎は立ち上がり黙礼した。 まず、丸山支部長が概要を述べ、 「詳しくは、ここにいる吉川銀太郎から報告させます」と銀太郎にバトンタッチした。 「吉川銀太郎です。よろしくおねがいします」いつものトレードマークであるでかい声の挨拶は、極度の緊張のため上ずってしまった。 どのような話し方をしたのか、思い出せないほど舞い上がっていたが、銀太郎は知る限りの事実を報告した。 銀太郎が報告を終えて席に座るやいなや、荏本専務が怒鳴りはじめた。 「そんなことはない。何かの間違いだ。でたらめな話だ。私の出身の銀行では、経営者側のメンツをつぶすような、このような発言が組合からされることは絶対にない。失礼千万だ」と怒っている。 こともあろうに銀太郎に向かって 「会社に敵対するようならば君の将来も保証されないぞ」と、銀太郎を脅かす。 それに対して委員長の絹田は、冷静に返答した。 「当社は銀行ではありません。それに、ここでの吉川君の発言は私の指示でしているものであり、全ての責任は私にあります」と銀太郎をかばった。さらに、 「これ以上の専務の発言が繰り返されるならば、われわれも『不当労働行為』と受け止め、黙ってはいられませんよ」と反論した。 その時、加藤人事部長が二人の間に入った。 「何らかの誤解だと思いますが、会社として責任をもって調べてから報告いたします」と、その場を取り繕い、労使協議会は終った。 中岡社長は沈黙したままだった。 [不当労働行為] 労働組合法第七条で使用者に禁止している次の四つの行為。①労働組合の結成その他の組合活動をしたことを理由に、解雇などの不利益な取り扱い、②正当な理由なく団体交渉を拒否すること、③労働組合の結成・運営に支配介入すること、④労働者が労働委員会に対して不当労働行為の救済を申し立てたことを理由として、解雇その他の不利益な取り扱いをすること。

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