銀太郎広告アリ全ページ
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週末、銀太郎は、伯父さんに電話をいれた。本社の加藤人事部長が自分の推薦人になっている事実を確かめるためだった。 「伯父さん、この前はご馳走様。伯母さんもお変わりありませんか」 「ああ、おかげさまで私も家内も元気だよ。元気だけが取り柄さ、ハッハッハ」 相変わらずの伯父さんの声である。 「あのう‥‥‥‥‥」 なかなか用件が、切り出せない銀太郎だった。 「どうした、いつもの銀ちゃんらしくないね。いやに神妙じゃないか」 「実は、伯父さん、お尋ねしたいことがあるんですが‥‥‥」 やっとの思いで、切り出した銀太郎だった。 「なんだい」 「伯父さん、私の推薦人に本社の加藤人事部長がなっているって、本当ですか」 「‥‥‥‥‥」 銀太郎の問いに、今度は伯父さんのほうが一瞬言葉に詰まったが、気を取り直して説明してくれた。 加藤人事部長と伯父さんは学生時代からの親友である。 銀太郎に昭和食品を勧めたのも伯父さんだったが、銀太郎が入社試験を受けたとき、伯父さんは密かに、当時人事課長をしていた加藤に甥のことを頼み込んでいた。加藤氏には、銀太郎の入社にあたっての推薦人にもなってもらった。しかし、伯父さんは銀太郎に負担感を感じさせないようにと、このことを秘密にしていたのである。そういえば、就職の相談を伯父さんにした時、伯父さんから推薦されて受けた会社が昭和食品だったことを思い出した。 「秘密にしたりして悪かったな、ごめん」 伯父さんにこのように率直に謝られると、銀太郎は何も言えない。伯父さん夫妻には子供がいないので、銀太郎と妹の由紀子を我が子のようにかわいがってくれたことを、重々承知していたからだ。 「それにしても銀太郎、どうしてそのことを知ったんだい」 「えーと、それは‥‥‥‥‥」今度は、銀太郎が言葉に詰まった。 伯父さんの自分に対する愛情を知る銀太郎は、組合役員になったことを心配した伯父さんのことを思い出して、この間のいきさつの本当のことを話せなかった。むしろ話すと心配させることになると思い、とっさに 「いえ、別にどうしてというわけじゃありませんけど、人がそんなうわさをしてるのを聞いたので」とごまかした。 そして、銀太郎から話題を変えた。 「まもなく年末の会社製品の特別社員販売があるので、伯母さんの大好きなアイスクリームの詰め合わせを贈ります。伯母さんに楽しみにしていてと伝えてください」 「おお、それは伯母さん喜ぶぞ。東京に来たら、銀太郎の好物のすき焼きをまた一緒に食べようや。母さんや由紀子も呼んでな」伯父さんは機嫌よく電話を切った。 [春闘] 一九五五年から、それまで産業別にバラバラに展開されていた賃金等の引き上げ交渉等を、春に統一して行うようになった。今日では春季生活闘争の略として使われている。 [ナショナルセンター] 産業別労働組合の連合体であり、労働組合の全国中央組織のこと。「連合」は日本最大のナショナルセンター。

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