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第三章 推薦人は二度真実を封印する 一 合理化策の背景 翌日、銀太郎は昨日の職場集会で指摘された製造過程における問題点について相談しに、製造現場の職場委員である三橋という男を訪ねた。 「三橋さん、どうも」 銀太郎は、午後三時からの十五分の休憩時に、休憩室で他の同僚と談笑している三橋職場委員に声を掛けた。 「おお、銀ちゃんじゃないか。しばらくだね」 三橋は定期大会で親しくなった銀太郎に笑顔を向けた。 「ちょっと確認したいことがあるんだけど、いいかな」 銀太郎は三橋を休憩室から呼び出した。 二人きりになるのを待って、銀太郎は三橋に単刀直入に尋ねた。 「製造過程で、『清掃・消毒作業を一部省略している』という話を職場集会で聞いたんだけど、それ本当なの? 乳製品の賞味期限も、社内規定で定められている日付の付け方より実際、十二時間ほど伸ばして表示するという計画があるというのも聞いたんだけど」 銀太郎からの思わぬ質問に、三橋は驚いた。 そのことについては三橋自身も疑問を感じていたのだが、どうしたらいいのかわからないでいたのである。三橋はつい、無意識のうちに周りを伺うような視線を泳がせた。 「実は、そうなんだ」 「三橋さん、それマズイじゃないの。やめた方がいいよ」 銀太郎は、三橋に諭すように言った。しかし三橋は黙って下を向いている。 「どうして、そんなルール違反をするのかなあ」 銀太郎の言葉に、三橋は重い口を開いた。 「製造コストの削減が製造部の最大の課題なんだ。製造部門の部門収支は、ここ三年間赤字ら しいんだよ。もっともっと、今以上にコスト削減していかないと、栃木工場にも統廃合問題が出るんではないかというんだよ」たしかに、ここ数年の間に会社は厳しい企業間競争に生き抜いていくために、老朽化してこれ以上生産性の改善が見込めない古い工場を閉鎖し、新工場へと統合させるリストラ策を展開していた。 現に昨年、昭和食品の発祥工場である戦後直後に建設された小田原工場が閉鎖され、小田原工場で製造していた製品は、最新設備の静岡工場と埼玉工場へ移管されるという工場の統廃合が行われていたのだ。 「それで、省略できる作業は何かを製造の全工程で検討した結果、問題のない清掃・消毒作業を一部省略しようということになったんだよ。時間的にも十〜十五パーセントの短縮になるらしいんだ」 「じゃあ、乳製品の賞味期限の刻印時間延長の件は?」 銀太郎は思わず三橋を追及する口調になってしまった。 「これは、もともと、うちの会社の賞味期限の表示は、業界の自主規制のルールの中でも厳しくやっていたので、十二時間ほど先延ばししても法律的な問題はないということらしいんだ。そうすることで、製品の廃棄ロスが少なくなって、会社全体でかなりのコスト削減になるらしい。まあね、上から業務命令的にいわれたら、どうしようもないよ。銀ちゃん」 銀太郎は返す言葉がなかった。 労働組合法で保障された労働組合が賃金・労働条件などについて会社と交渉すること。日本国憲法で認められた権利。会社は正当な理由がない限りこれを拒否することは出来ない。ひとくち用語解説… 「団体交渉」

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