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五三 匿名の投書 十月末の水曜日、銀太郎は職場集会を開催した。物流職場の仲間に集まってもらい、安全・衛生に関する意見を求めるためである。 職場集会は例年開かれているので、職場集会はどんなものなのかは皆一応、承知していた。 銀太郎も組合員であるから、ほぼ毎回参加しており、どんな風に開催されるかは知っていた。 しかし、このような秋の職場集会が全国の職場で一斉に開かれていることや、全社的な安全・衛生のための改善活動のためであるということは、職場委員になって初めて知った。 しかも、その職場集会で出された意見が支部や本部でまとめられ、工場長や社長にまで伝えられているなどということは、職場委員をやるまでは知らなかった。ただ単に、労働組合や会社に対する要求や不満を職場の皆が述べる場だと思っていた。 そこで銀太郎は、職場集会を開く前に、今回の職場集会の目的やねらいについて、簡単な職場集会の開催通知をつくった。一本気な気性のわりには、こういうところは結構マメな銀太郎である。開催日・時間・場所のほか、当日の会議の目的やねらいを書き、さらに参加者に事前に準備してきてほしいこと、つまり安全と衛生に関する職場における問題点の情報収集をして職場集会に臨んでほしい、ということを書き込んでおいたのだ。 また、その開催通知を配りながら、口頭でも職場集会の開催趣旨を皆に伝えていった。 さらに、当日の職場集会にどうしても出られない場合は、開催通知の裏側に準備した書き込み欄に記入して、ロッカールームに置いておいた回収ポストに投函するようにした。 さて、こうして準備した職場集会であるが、冒頭はいつものパターンで発言らしい発言はない。 しかたなく、銀太郎は出席者の一人ひとりに、発言を求めていくことにした。しかし、それぞれ出された意見は、自分たちの仕事に対する不満が大半で、目的である安全・衛生の問題とはピントがずれているものばかりだった。 さらには、労働組合の活動に対する不満まで出始め、挙句には、職場委員である銀太郎に対して文句を言う人まで出てくる始末である。 そのような中、普段から物静かで口数の少ない、早い話が銀太郎とは正反対のタイプで、あだ名を『亀ちゃん』といわれている清水という男が、目玉をキョロキョロさせながらおずおずと発言した。 「あのお、もしかしたら場違いの発言かもしれませんが‥‥‥」 「どんな発言でもかまいません。遠慮なく言ってください」と、銀太郎は促した。 「実は最近、工場の製造部門で、清掃・消毒作業を一部省略し始めたという話を聞いたんです。問題はないのかも知れませんが、定められた安全衛生マニュアルどおりに作業をしなくてもよいものなんでしょうか」 清水の発言は、工場での製品製造過程での品質管理に関する作業手順不備の問題の指摘だった。彼は倉庫業務の担当なので製造部門の人との接触があり、どこからかそのような話を聞きつけていたのだった。 「それから、乳製品の賞味期限も、実質的に問題がないという理由で、社内規定で定められている日付の付け方よりも十二時間ほど伸ばして表示しようとする計画もあると聞きました」 清水の発言に、銀太郎は驚いた。なぜなら、職場集会の開催の前に、本日の職場集会に向け組合員に意見投函を求めたポストに、同じようなことが書かれた匿名の投書があったからだ。投函者は清水でないことは確かである。投書はパソコンで打たれたものだったが、清水と同じ寮に住んでいる銀太郎は清水がパソコンを持っておらず、それが出来ないことがわかっていたからである。

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